介護DXで人手不足を解決
仕事の余裕がケアの質を高める
――アズパートナーズは、2004年に植村社長が設立されました。この事業を始めたきっかけを教えてください。
植村 そもそも私は、不動産会社で共同住宅の開発業務を手がけており不動産・住宅事業で人々の日々の暮らしに貢献したいという強い「想い」がありました。高齢化社会が騒がれはじめたとき、高齢者の住まいは、どうあればいいのかを考えました――それがアズパートナーズを創業したきっかけです。
――アズパートナーズは、介護業界でいち早く介護DXに着目し、注目を集めているとお聞きします。
植村 高齢者の住まいを考えるに当たって介護の現場でいろいろなことを見聞きしていくうちに、様々な問題を抱えていることが分かりました。一番の問題は、介護スタッフの慢性的な人手不足や離職です。待遇などの制度の課題もありますが、何よりもマンパワーに頼り過ぎていると感じました。スタッフは、ご入居者お一人おひとりに寄り添い、役に立ちたいという「真摯な想い」を抱いていたはずです。それがいつしか日々の業務に追われ、介護の仕事は辛いということが当たり前となってしまっている現状でした。仕事に余裕がなくなれば、笑顔もなくなる。そんな状態でご入居者に接し続けていては、ケアの質は保たれません。
介護DXに着目したのは、個々の労働生産性を高め、効率性を追求することでケアの質を高めたいと思ったためです。
EGAO linkはご入居者と
介護従事者双方に役立つ
――介護DXとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
植村 当社が取り組んでいる介護DXでは、まずICT/IoT機器を活用しスタッフの業務負担を軽減し、ご入居者との個別ケアの時間を生み出しました。さらにデータを蓄積・分析することで客観的・科学的なアプローチを実現し、業務フローやお客様へのサービスアプローチの改善につながっています。
当社が採用している仕組みは、2017年にベンダー4社の協力を得て開発したシステム「EGAO link®(エガオリンク)」です。導入当初は業界初の、スマホ1台でお客様の状態把握、記録入力、ナースコール対応が可能となる画期的なシステムです。
介護現場は多職種間の業務連携が非常に重要になりますが、当時は記録類はばらばらに管理されており、職種間を跨いでの記録確認が煩わしく非効率な現状でもありました。EGAO linkの導入で職種間連携(チームケア)にも良い効果が現れております。
――EGAO linkを導入することで、どのような効果があるのでしょうか。
植村 現場スタッフの業務で大きな負担となっていたのが、介護記録、夜間巡視、ナースコール対応でした。それがスマホ1台の操作で対応できるのです。従来、介護施設では記録は紙ベースでの記入、夜間帯の巡視は2時間おきに各居室にお伺いし、ご入居者の状態を確認、ナースコールは、鳴ったら対応するという業務をしていましたが、この負担が格段に軽減します。1日当たり17時間の間接的な業務を削減することができました。
これにより、夜間帯の人員配置も60床規模のホームで3人から2人へ減らしても2時間の休憩が取れる状況になり、収益改善とともにスタッフの心身面の負担を軽減できる結果となりました。
ご入居者も夜間巡視の訪室で目を覚ましてしまうことがなくなり、睡眠の質も向上しています。
――ご入居者と介護従事者の双方にメリットがあるのですね。
植村 スタッフも日々の業務に追われると、心も体も疲れてしまいます。それではご入居者もスタッフもよいことは何もありません。「EGAO link」を使えば時間や心に余裕ができ、親身なケアが生まれます。
このシステムは、当社が首都圏で展開している介護付きホーム「アズハイム」全棟に導入し、全職種によって活用されています。一方、同業他社でも導入したいとの声があれば、業界が抱える課題の改善にもつながるので、積極的に展開したいと考えています。業界のスタンダードになってほしいとの思いもあります。「私たちが介護を変える。この国の未来を変える。」という目標を持って、介護業界全体の底上げにつなげたいと考えています。
介護のDX化により
新卒採用にも好影響
――介護DXの推進によって、新卒採用に影響はありましたか。
植村 「EGAO link」をはじめとした介護DXの導入が新卒採用にも功を奏しています。当社では2004年の創業以来、採用活動、人材育成に力を入れてきました。年間2から5事業所の介護付きホーム、デイサービスセンターを開設し、今では47の事業所を運営し、約1600名のスタッフが働いています。新卒採用も創業5年目から始め、一昨年から3年連続で170名以上の採用を実現できています。
幸いなことに介護業界においてもIT活用が企業選びの基準となって、多くの新卒者に入社いただいております。今ではケアスタッフの80%を新卒社員が占めるようになりました。漠然と介護の仕事をしたいのではなく、アズパートナーズで介護DXの経験を通して、介護の質や仕事を極めたいと思っている社員が多くいます。以前に比べて離職が減っているのも、ともすれば経験が重視される介護の世界の中で、日常的なケアから得られるデータを活用することで、若くても適切なケアができるようになっているからだと実感しております。
――そのほかにどのような介護DX導入のメリットがあるのでしょうか。
植村 DX化は介護スタッフのモチベーションを高めることにもつながりましたが、介護スタッフのキャリアアップにも変化をもたらしています。従来、介護を極めた後には、マネジメントスタッフとしてチームをまとめるリーダーや事業所の管理者へキャリアアップするのが一つの道でしたが、これからは自社での介護DX経験を積んだ人材が同業他社のオペレーション改善コンサルティングに出向くという新たなキャリアステップも視野に入れております。
また当社では介護DX化によるデータの活用により、睡眠の質や食事、水分摂取量などの客観的なデータを通じて主治医との連携を深めています。これにより入居者の使用薬剤の適正化につなげ、結果的に入院率の減少にもつながっております。これらのデータを活用し、自立支援に向けた科学的介護を実践しております。
今後もデータドリブンによる意思決定を重視し、課題をスピーディに解決することで、従業員、ご入居者双方のWell-beingを高めていきたいと考えております。
当社サイトのキャッチコピーに使用している「そのあたらしさは、やさしさになる」とは、進化するものを積極的に取り入れ、スタッフの心にゆとりを生ませる、それが結果的にサービスの質の向上につながっていく、それが私たちが大事にしている考えとなります。
――2024年4月に東証スタンダード市場に上場しました。今後の決意をお聞かせください。
植村 アズパートナーズは決して大きな企業ではありませんが、介護が変われば、日本の未来が変わると信じています。私たちには介護DXの領域ではトップランナーであるという自負があります。日本の介護にサステナビリティをもたらし、投資先としても価値ある魅力あふれる企業を目指していきます。今後は介護について様々な情報を発信し、多くの高齢者やそのご家族、そして多くの企業から信頼されるパートナーになりたいです。それがアズパートナーズの使命だと考えています。